月相とは
月相とは月の満ち欠け、日々移り変わる月の形のこと。
下のイラストは新月から満月を経て、再び新月へと向かう月相のサイクルを8つに分けて示している。
「新月」や「三日月」、「上弦の月」などが各月相の呼び名である。
月相は新月で始まり、二十六夜(にじゅうろくや)で終わる(二十六夜はバルサミック・ムーンと呼ばれることもある)。イラストの中で、右側にある新月(New Moon)を起点に反時計回りに見ていくと、ひとつの月相のサイクルがわかる。
まず、新月(New Moon)では月が見えない真っ暗な状態から三日月(Waxing Crescent)を経て徐々に光が満ちていき、上弦の月(First Quarter)で光は半分を占めるようになる。
十三夜(じゅうさんや、Waxing Gibbous)では月の形は球形に近くなり、満月(Full Moon)で完全に光に満ちる。
そこから光は少しずつ欠けていき、寝待ち月(Waning Gibbous)では球形にわずかに足りない形になり、下弦の月(Last Quarter)で光は半分になる。
二十六夜あるいはバルサミック・ムーン(Waning CrescentあるいはBalsamic)の頃には暗闇の部分が多くを占めるようになり、そして再び新月となって完全な暗闇が訪れ、次の月相のサイクルが始まる。
ちなみにイラストは北半球から見た場合の月の見え方で、南半球では満月をのぞいて、月の見え方が逆になる。たとえば北半球では上弦の月は右側が明るく見えるが、南半球では左側が明るく見える。
新月から二十六夜までの8つの月相を使った占い、というかタイプ分類を提唱したのが西洋占星術師デイン・ルディア(Dane Rudhyar; 1895-1985, フランス生まれ、のちにアメリカへ移住)である。
彼は、人間はその人が生まれた時の月相にしたがって8つのタイプに分けることができるとした。
この記事では、ルディアが月相によるタイプ分類を提唱した背景について書いている。
背景よりも月相によるタイプ分類そのものに興味がある場合、たとえば「自分が生まれた時の月相を知りたい」「どの月相に生まれた人がどんな性格なのか知りたい」という方は、「月相占い」の記事をどうぞ。
ルディアの考える西洋占星術的三大要素
月相によるタイプ分類について述べた‘Lunation Cycle: A Key to the Understanding of Personality’(『月相のサイクル:個別性を理解するための手がかり』)という彼の本の中で、西洋占星術(いわゆる星占い)で重要な要素としてルディアが繰り返し言及するのが①「サイクル(周期)」、②「魂(spirit)」、③「関係性」である(ここでは原語のspiritを魂と訳すことにするが、この語をどう訳すかは人によってかなり異なる気がする。たとえば「霊」と訳す人もいるかもしれない。読者には好きなように読み替えていただきたい)。
① サイクル(周期)
西洋占星術は人生のサイクルを読み解くためのひとつの方法だとルディアは述べている。
そしてサイクルを読み解くことは、時間を読み解くことである。
ルディアの考えでは、時間は2種類ある。
客観的な時間と、主観的な時間である。
客観的な時間というのはたとえば2時間54分44秒というような、共通の尺度(というか単位というか)ではかることができて、誰がはかっても同じ時間を指す。
これに対して主観的な時間は、ある人が感じる時間であり、客観的な時間とは無関係なその人独自のリズムの現れである。
主観的な時間は、ある人がその人だけでひとつの有機体として完結して(つまり全体性を得て)機能している結果として生じる(全体性の話は次の② 魂に続く)。
これはどういうことだろうか?
たとえばあなたが湖の中の一滴の水だったとする。
そしてあなたが「私は湖の中の一滴の水だが、私は一滴だけでひとつの有機体として完結している。私はただの湖全体を構成する一要素の一滴ではない。私は私という唯一無二の一滴の水である」という意識を持っているならば、あなたは全体性を得て機能している=主観的な時間を生きていることになる。
では私たちが主観的な時間を生きるとどうなるのか?
私たちは不死身になる。
ある人が主観的な時間を生きるということは、その人が独自の世界、つまりその人がその人である世界に存在し、死に対してさえもその世界の構造を保つ力を持つということである。
死さえもその人の世界を終わらせることはできない。
つまりこれは、客観的な時間に対する主観的な時間の勝利である。
一方で客観的な時間は周期的なもの(サイクル)だとルディアは言う。
なぜなら客観的な時間は宇宙の周期的な変化によって成り立っているからである(たとえば地球の1日は約24時間であり、これは地球が1回自転するのにかかる時間が約24時間だからであるように)。
サイクルの中では、何かが生まれ、育ち、やがて成長しきると、成長によって得たものを還元する段階に入る。
サイクルは普通2つか3つ以上の要素のあいだで起こるもので、それぞれの要素に動きがあり、決して同じ場所に留まることはない。
月相もひとつのサイクルで、このサイクルには太陽と月と地球という3つの要素がある。
② 魂
誰かのホロスコープ(ある人が生まれた時の太陽や月と、水星などの惑星の位置を表した図。西洋占星術ではその人の人生や性格などを解釈するために使われる)を読み解く時には、その一部ではなく全体をとらえなければならないとルディアは述べている。
たとえば「このホロスコープからは、(ホロスコープの持ち主である)彼女は人生のこの時期にこのような経験をすることが読み取れる」というのは、客観的な時間をもとにそのホロスコープについて、あるいはその持ち主について一部を明らかにしているに過ぎない。
このようなホロスコープの解釈では、私たちには宇宙によって定められた運命に従って生きるしか道はないということになってしまう。
しかし西洋占星術は定められた運命を告げるための道具ではない。
西洋占星術が目指すのは、ある人の人生というサイクルの中に存在する重要な転換点において、その人がその人だけのやり方でいかに成長できるかを示すことである。
つまり私たちは、自分の人生を作り出す力をデフォルトで宇宙から与えられているのだ。
たとえばホロスコープの持ち主である彼女というのはこの世にただ一人存在するわけだが、彼女が彼女としての独自性を発揮し、客観的な時間を超えて主観的な時間を生み出し、彼女というひとつの時代の始まりを築くために本人が生まれながらに持っている力まで明らかにして初めて、そのホロスコープの、あるいは彼女の全体をとらえたことになる。
この「全体性」と魂とは深いつながりがある、というかルディアの考えでは魂とはすなわち全体性である。
そのため魂には、たとえば何かが足りないだとか必要だとかまだ完全には達成できていないとかいう人々の意識がこの世に漂っている時には、人々の全体性を、バランスを、調和をもう一度作り上げる働きがある。
③ 関係性
② 「魂」で触れたように、ホロスコープを読み解く際にはその全体を見なければならない。
これは言い換えれば、ホロスコープに含まれる多くの要素(たとえば金星や火星といった惑星だけでも8つある)のあいだの複雑な関係性を読み解くことである。
魂とは全体性であり、全体性は多くのもののあいだの関係性によって成り立っている。
つまり②「魂」と③「関係性」は結びついているわけだが、③「関係性」は①「サイクル(周期)」とも結びついている。
なぜなら関係性もまたサイクルだからである(この世界はサイクルで満ちている)。
ある関係性が生まれ、育まれて、成長を終えると今度は得たものを還元してひとつのサイクルが終わり、また新たなサイクルを作り出すか、あるいは跡形もなく消え去っていく。
人間にとって関係性が持つサイクルの性質や法則を理解することはとても重要だとルディアは言う。
というのも、この理解があって初めて私たちは(たとえば誰かとの)関係性から生じる経験にうまく対応したり、その経験から自分の魂を大きく成長させたりできるからである。
三大要素と月相
上で見たように、ルディアはサイクルや魂(全体性)、そして関係性を重視している。
月相にはこれら3つの要素がすべて含まれている。
月相は新月から満月を経て再び新月へ向かうというひとつのサイクルである。
宇宙の変化の中でも、満ち欠けによって日々月相が変化する様子はひときわ際立っていて、特別視に値するとルディアは言う。
そして月相は太陽と月の二者関係のように見えるが、実際のところは太陽と月と地球の三者関係である。
というのも、月相は地球から見た月の形であるので、地球という要素も必然的に含まれるのだ。
そして月相は地球に影響をもたらす。
この意味でも、月相という関係性には地球が含まれている。
では月相はどのようにして地球に影響を与えるのだろうか?
一言で言えば「月が太陽の光を介して地球上の人間の望みを叶えてくれる」という図式なのだが、もう少し詳しく説明するとこういうことになる。
❶ 地球上には、叶えられなかった希望だとか、調和に至らなかった不全感だとかが漂っていて、これらはそれぞれ「もう一度やり直して望みを叶えたい」とか「ひとつに戻りたい」とか叫んでいる。
❷ この叫びを宇宙の魂が聞きつけ、「力を貸してあげよう」と思い始める(ちなみに宇宙の魂は太陽によって象徴される)。
「魂」で触れたように、魂とはすなわち全体性なので、全体性や調和が欠けている場合には魂はそれらをもう一度作り上げる働きを持っているのだ。
❸ しかし太陽の力は強すぎるので、地球上の生き物は太陽の力を直接使うことはできない(ちょうど私たちが太陽を直接見ることはできないように)。
徐々に太陽の力を与えられてはじめてその力を利用し、内に取り込むことができる。
このようなわけで、地球(そして人間)は月を必要とする。
月は人間がその望みを叶えられるように、月相をとおして、太陽の光あるいは力を少しずつ地球に降り注がせる。
つまり月は太陽にとっても地球にとっても、望みを叶えるための仲介をしてくれる存在である。
なぜ西洋占星術に月相が必要なのか
ルディアは、現代の(といっても20世紀前半のだが)西洋占星術は、ある人の誕生日という「時点」やその人の人生、性格を占うことを非常に重視しており、また、多くの読者に届けるために単純化・一般化せざるを得ないという雑誌の占いの影響もあって、太陽星座を強調し過ぎていると述べている。
太陽星座は、ある人が生まれた時にホロスコープ上で太陽がどの星座にあったかを表すもので、たとえばその人が生まれた時に太陽が牡牛座に位置していれば、その人の太陽星座は牡牛座ということになる。
「私は牡牛座です」とか「射手座です」というように、いわゆる「自分の星座」を名乗る時に使う星座は(たいてい)太陽星座である。
ルディアによれば、太陽は確かにホロスコープの最も基本的な要素と言ってよいが、それだけが根本的に重要な要素というわけではないし、太陽星座だけがある人のホロスコープが持つ独自の重要性を特徴づけるわけではない。
そして太陽星座はその人が生まれた時に太陽がどの星座にあったかを示すものなので、「位置のサイクル(a cycle of positions)」であって、ルディアの重視する「関係性のサイクル(a cycle of relationship)」ではない。
西洋占星術では、太陽は人生の基本的な目的や、その人の意志を表すとされる。
しかし目的を達成するにはそのための手段や方法が必要である。
月は月相という太陽と地球との関係性をとおして、太陽の光を少しずつ地球に降り注がせることによって、人間が何かしらの目的を達成できるようにする。
つまり、月は人間にとって(そして太陽にとっても)目的を達成するための手段であり、方法である。
太陽星座からは、ある人が持っている根源的なエネルギーの性質や、人生における目的がわかる。
これに対して、ある人がどの月相に生まれたかを見ることで、人生のプロセスがどのように展開するか(なぜなら関係性はプロセスでもあるので)、関係性における問題をその人がどのように解決するか、そして、太陽の示す目的をどのように実現するかがわかるとルディアは言う。
月相はいつでも形成されていて、どの瞬間も、月相のサイクルの中での位置によってそれぞれ特別な意味を持つ。
というわけで、たとえば「私は天秤座」と言うのと同じように、「私は三日月生まれ」とか「満月生まれ」と言うことができる。
人間は太陽星座に加えて、いくつかの重要な月相の時期が持つ意味にしたがってそれぞれのタイプに分けることができる。
そしてしつこいようだが、関係性重視ポジションを取るルディアの視点から繰り返すなら、月相による人間の分類は(太陽と月と地球との)関係性をもとにした分類であって、太陽星座のような太陽というひとつの要素だけに基づく分類ではない。
ルディアが関係性を強調するのは、人間は関係性の中に生きていて、人間を理解する上で関係性は非常に重要だからである。
そこでルディアは人間をより深く理解するための試みとして、月相を8つに分け、それぞれの月相に生まれた人がどのようなタイプなのかを解説した。
ルディア自身はこれを月相占いとは呼んでいないが(彼は元々は月相誕生日the lunation birthdayという言葉を使っている)、おそらくはわかりやすいようにという理由で、ほかの西洋占星術師がこの8つの分類を月相占いあるいは月相占星術と呼ぶ場合もある。
月相はなぜ8つなのか
ところでなぜルディアは月相を8つに分けたのだろうか?
月相はもっと細かく分けようと思えば、たとえば29に分けることもできるし、逆にもっと大雑把に4つに分けることもできる。
ルディアは、太陽と月のように2つの動くものが織りなす周期的な相互作用では、その関係性から生じる結果は常に変化するため、こういった相互作用を扱う際にはその結果を8つに分類することが最も論理的で実用的だと考えている。
関係性は力を生むが、力が解き放たれる周期性は(少なくとも心理的、生物的、有機的活動という意味での生命に関しては)本来8という数字で表されるか、はかられるべきものであり、たとえばグノーシス派という紀元1〜2世紀のギリシャ文化圏で見られたキリスト教的考え方では、イエス・キリストのシンボルは888である。
そして、十字を囲んで円を描くと4つの点ができるが、これらは2つの両極の要素が持つ関係性における基本的な転換点を指すものである。
しかし最も勢いのある瞬間や、力(あるいはエネルギー)が解き放たれる時の中でも最も重要なものを示すには、上の十字+円の図でできる4分の1に切り分けられたケーキの一片のような部分をそれぞれ二分割し、4つの点を加える必要がある。
つまり8つの部分と、8つの点である。
*ルディアが提唱した月相による8つのタイプについては、「月相占い」の記事で扱っている。
文献
Rudhyar, D. (1967). Lunation Cycle: A Key to the Understanding of Personality. Aurora Press.
西東社編集部編. (2015).『心に響く! 日本の「美しい言葉」2200』. 西東社編集部.